ウィスターラットの腹腔内へ、non-competitive NMDA antagonistであるケタミン100mg/kgを投与することによって、帯状皮質(cingulate cortex)に大量のc-fos蛋白(c-Fos)の発現が誘導されることを確認した。この部位はOlney等が、ケタミンを含むnon-competitive NMDA antagonistsによって神経細胞の障害が引き起こされることを報告した部位である(Science 1989;244:1360-1362;Science 1991;254:1515-1518)。本年度我々は、このc-Fos発現は、ベンゾジアゼピン誘導体ジアゼパムのみではなく、吸入麻酔薬であるハロセンにより濃度依存性に抑制されることを見いだした。さらに、これらのラットに人工呼吸を行い、血行動態のモニターをし、呼吸および血行動態を一定に保った場合でも結果は同様であった(Anesthesiology 1996;85:874-882)。このことは、ケタミンの幻覚等に副作用の予防と治療に、ベンゾジアゼピン誘導体が有効であることの理論的根拠を与えるとともに、吸入麻酔薬との併用でもこの幻覚が抑制される可能性が示唆された。
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