ウィスターラットの腹腔内へ、non-competitive NMDA antagonistであるケタミン100mg/kgを投与することによって、帯状皮質(cingulate cortex)に大量のc-fos蛋白(c-Fos)の発現が誘導されることを確認した。この部位はOlney等が、ケタミンを含むnon-competitive NMDA antagonistsによって神経細胞の障害が引き起こされることを報告した部位である(Science 1989;244:1360-1362;Science 1991;254:1515-1518)。本年度我々は、このc-Fos発現は、静脈麻酔薬プロポフォールにより濃度依存性に抑制されることを見いだした。さらに、プロポフォール単独では発現誘導が起こらないことを確認した。プロポフォールは、GABA_A受容体を活性化すると同時にNMDA受容体を抑制することが知られているため、発現抑制のメカニズムについての検討がさらに必要である。この結果は、ケタミンの幻覚等の副作用の予防と治療にプロポフォールが有効であることを示唆すると共に、その理論的根拠を与えるものである。
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