生体の免疫応答は、損傷された組織が放出するインターロイキン8、ロイコトルエンを初めとする遊走因子により、リンパ球、好中球が損傷部位の毛細血管に停滞し、そこで血管内皮との接着し、血管外に脱出することにより開始される。この血管内皮との接着の段階には、細胞膜上に発現している多くの接着分子が関与していることが知られている。外科的手術は、多くの組織損傷を伴い、これにより生体は免疫応答を開始している。手術侵襲を受けている生体において、この免疫応答におけるリンパ球、好中球に発現しているLFA-1、CD35、CR3接着分子の役割を解析するために、リンパ球、好中球に発現している接着分子の発現の動態の変化を細胞学的、遺伝子発現のレベルから解析した。開腹手術を受けている生体より採取したリンパ球、好中球を用いて、モノクロール抗体を用いたフローサイトメーターにより膜抗原の発現を解析し、また、リンパ球よりメッセンジャーRNAを抽出し、遺伝子発現をPCR法ならびにRNA定性定量を用いて接着分子の遺伝子発現を解析した。リンパ球、好中球共に、LFA-1分子の細胞膜上の発現、mRNAの発現共に、腹腔内操作の開始から、1時間後に、発現の低下を認め、6時間目まで、低下を認めた。このことから、LFA-1分子の変動は、手術操作により臓器、腹膜に対する操作が炎症を惹起したことと関係があると考えられる。しかしながら、LFA-1分子を除く、CD35、CR3の接着分子の発現には、分子の膜上の発現、遺伝子発現に有意な変化を認めることができなかった。
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