クローン化したラットμ、δ、κオピオイド受容体のcDNAをCHO細胞に導入することによりそれぞれの受容体を発現する細胞株を作成した。これらの細胞株を用いて、オピオイド受容体を介する細胞内情報伝達機構を検討し、従来報告されているアデニル酸シクラーゼ抑制作用の他に、オピオイド受容体の活性化によりMAP(Mitogen-activated protein)キナーゼが活性化されることがわかった。オピオイド受容体によるMAPキナーゼの活性化にはチロシンキナーゼ及びプロテインキナーゼCが関与していることが示された。さらにオピオイド受容体をアゴニストで刺激するとMAPキナーゼの活性化を介してホスホリパーゼA2の活性化が起こり、アラキドン酸が放出されることが明らかになった。これらの知見はオピオイド受容体の新しい細胞内情報伝達機構を解明したものである。今後、このオピオイド受容体を介する細胞内情報伝達機構に対する各種麻酔薬の作用を検討する計画である。 μ、δ、κオピオイド受容体を大量に発現する細胞株を用いて、オピオイドアンタゴニスト(ナロキソン、ナルトリンドール、ナルトレキソン、ナロキソナジン)の薬理作用を検討した。その結果、アゴニスト非存在下ではこれらのオピオイドアンタゴニストは弱いアゴニスト作用を持ち、アデニル酸シクラーゼを抑制いて細胞内サイクリックAMP量を減少させることが明らかになった。このアデニル酸シクラーゼ抑制にはGTPase活性の上昇すなわちG蛋白の活性化を伴っていた。これらの結果は、臨床的に報告されている少量のナロキソンによる鎮痛作用の基礎となると考えられる。
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