平成8年度は第一にネコ脊髄後角ニューロンにおけるWind up現象を安定且つ再現性を持って記録できるかどうかを検討した。ネコを用いてウレタン・クロラロース麻酔下に腰椎椎弓切除術を行い、脊髄表面を露出させた。3MKClを充填したガラス電極を刺入し、単一ニューロンの細胞外記録を行った。ニューロンは後肢に触刺激を加えつつ、オシロスコープの観察及びスピーカーからの反応音によって電極刺入の深さを決定し、記録した。記録されたニューロンにブラシによる触刺激、有鉤ピンセットで皮膚をつまむピンチ刺激及び熱刺激を加えることによってその性質を決定した。すなわちこれら全ての刺激に反応し、且つ反応の大きさが刺激強度に応じて増大するものを広作動域(WDR)ニューロンとみなした。WDRニューロンの受容野の中心の皮下に電極を刺入して電気刺激したところ0.5Hz、20voltの刺激で約20%のニューロンにWind Up現象が観察された。しかしながら、この割合では麻酔薬の影響を定量的に検討するためにはあまりにも多くのネコが無駄になり、実験系として適当ではないと考えられた。そこで、脊髄ニューロンの興奮性の増大を引き起こす実験系として、第二にWDRニューロンの末梢受容野に炎症誘起性物質carrageenanを注射して起こるWDRニューロンの受容野の拡大について検討した。その結果100%のWDRニューロンでcarrageenan注入により、受容野は注入2時間後より増大し始め、4時間後にはほぼピークに達し、以後は注入6時間後までほぼ一定であることが明らかになった。この反応は再現性に富み、麻酔薬の影響を検討するのに適当であると考えられた。平成9年度はこの様なcarrageenanによるWDRニューロンの受容野の増大に及ぼす麻酔薬の影響を検討する予定である。
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