研究概要 |
平成9年度は,平成8年度にネコ脊髄後角ニューロンにおけるWind up現象の実験モデルとなり得ることを明らかにした,carrageenanによる広作動域(WDR)ニューロンの受容野の増大に及ぼす麻酔薬の影響を検討した。吸入麻酔薬としては最も古典的なハロセンを代表として使用した。ネコを用いてウレタン・クロラロース麻酔下に腰椎椎弓切除術を行い、脊髄表面を露出させた。3MKClを充填したガラス電極を刺入し、単一ニューロンの細胞外記録を行った。ニューロンは後肢に触刺激を加えつつ、オシロスコープの観察及びスピーカーからの反応音によって電極刺入の深さを決定し、記録した。記録されたニューロンにブラシによる触刺激、有鉤ピンセットで皮膚をつまむピンチ刺激及び熱刺激を加えることによってその性質を決定した。すなわちこれら全ての刺激に反応し、且つ反応の大きさが刺激強度に応じて増大するものをWDRニューロンとみなした。WDRニューロンの末梢受容野に炎症誘起物質carrageenanを注射して起こる受容野の拡大について,0.5%ハロセン吸入の影響を検討した。ハロセン非吸入群ではcarrageenan注入により、受容野は注入2時間後より増大し始め、4時間後にはほぼピークに達し、以後は注入6時間後までほぼ一定であった。一方ハロセンをcarrageenan注入時より2時間吸入させたハロセン吸入群では,受容野はハロセン吸入中はわずかに縮小し,吸入中止2時間後から受容野は拡大し初め,吸入中止4時間後にはハロセン非吸入群とほぼ同じレベルまで受容野を拡大させた。以上の事実から吸入麻酔薬はネコ脊髄後角ニューロンのWind Up現象に対して抑制効果を有するが,その効果は吸入麻酔薬の吸入中に限られることが示唆された。
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