ヒトの心臓手術時や血行動態的に予備能力が乏しい場合に汎用されるフェンタニールが、イヌ摘出交叉潅流心に及ぼす作用を菅らが提唱したEmax(収縮性の指標)-Vo_2(1拍当たりの心筋酸素消費量)-PVA(収縮期圧容積面積)関係を用いて心力学的及びエネルギー学的に解析した。 【方法】イヌ摘出交叉潅流心を一定の心拍数でペーシングして等容性収縮下にて以下の計測を行った。(1)左室容積(前負荷)を生理的範囲にて広く変化させ、Emax及びVo_2-PVA関係を測定した(control volume run)。(2)左室容積を一定に維持し、摘出潅流心の冠動脈に生理的浸透圧に調製したフェンタニール(20μg/mL)を冠動脈の血中濃度が20、40、240ng/mLとなるように冠血流量をモニタリングしながら調節して持続投与し、各々Emax及びVo_2-PVA関係を測定した(fentanyl Emax run)。(3)冠動脈のフェンタニール血中濃度を240ng/mLとし、再び左室容積を変化させEmax及びVo_2-PVA関係を測定した(fentanyl volume run)。volume runで得られたVo_2-PVA関係はANCOVA、その他のデータはpaired-t testにて検定した。 【結果】control volume runおよびfentanyl volume runの間でEmax及びVo_2-PVA関係に有意な差はなかった。また、fentanyl Emax runにおいてもどの濃度でもEmax及びVo_2-PVA関係に有意な差はなかった。 【結論】フェンタニールは、major surgeryに耐えうる有効血中濃度においてもイヌ摘出交叉潅流心の左室収縮性や1拍当たりの心筋酸素消費量に影響を与えない。 尚、この要旨は、平成9年2月末現在、Anesthesiologyに2回目の投稿中である。
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