研究概要 |
ブピバカインは長時間作用性で、知覚神経遮断作用が強く運動神経遮断作用が弱いという特徴を有する局所麻酔薬である。しかし、ほかの局所麻酔薬に比べて心臓に対する毒性が強い。そのため、ブピバカインを誤って血管内へ注入すると心停止を起こし、蘇生が困難であると指摘されている。 ところでブピバカインは、S-ブピバカインとR-ブピバカインとのラセミ体である。これまでの動物実験の結果によると、R-ブピバカインの毒性がS-ブピバカインより著明に強いことが判っている。類似の構造を有するs-ロピバカインが、同様の理由から欧米で市販され、日本においても治験中であるが、ブピバカイン・ラセミ体に比べて運動神経遮断作用が弱いため筋弛緩効果が不十分との意見が多い。しかし、S-ブピバカインとS-ロピバカインを直接比較した実験はない。研究代表者らは、これにR-ブピバカインを加えて、アメリカザリガニの神経軸索を用いて活動電位の抑制効果および細胞内局所麻酔薬濃度を比較し、S-ブピバカインとs-ロピバカインの効果を比較した。 アメリカザリガニの腹部神経索に微小ガラス電極を刺入して、低頻度(0.1Hz)または高頻度(5Hz)の域値上刺激を用いて刺激し、1mM,pH7.0のS-ロピバカイン、S-ブピバカイン、またはR-ブピバカインのどれか1つを15分間潅流投与したところ、低頻度刺激では3つの局所麻酔薬で差がなかったが、高頻度刺激では、活動電位、活動電位のdV/dt max,dV/dt minのいずれもが、S-ロピバカインよりS-ブピバカインで有意に大きく抑制された。R-ブピバカインは両者の中間に位置した。 研究代表者らが開発した細胞内局所麻酔薬濃度測定用微小ガラス電極をザリガニの軸索に刺入し、低頻度または高頻度で刺激しながら、3つの局所麻酔薬の中の1つを15分間潅流投与したあとに細胞内濃度を測定したところ、低頻度刺激でも高頻度刺激でも、いずれの平均値も0.2〜0.3mMの範囲内にあり、3群間に有意差はなかった。 高頻度刺激のもとでS-ブピバカインまたはS-ロピバカインを投与して、神経細胞内濃度が同じレベルに達しても、麻酔作用はS-ブピバカインのほうがS-ロピバカインより強いことが明らかになった。
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