周術期の脳合併症は患者に機能的予後に重大な影響を与えるため、脳虚血及び脳保護について盛んに研究が行なわれている。近年、動物実験において、33-35℃程度の軽度低体温が従来いわれてきた代謝の抑制では説明できないほど強力な脳保護作用があることが明らかになってきた。そこで、脳合併症のリスクにさらされる脳外科手術への軽度低体温療法の臨床応用が期待されている。我々はその方法論を確立するために、これまでに103例の開頭手術患者に対し、笑気、酸素、セボフルラン及びフェンタニール麻酔下で軽度低体温を施行してきた。目標温度が、鼓膜温で34.5℃前後になるように温風式加温装置及び体温調節装置を用いて調節した。6例で鼓膜温が35℃以下にならなかったが、その他の症例では温度管理は可能であった。体温低下率は平均1.3℃/時間、目標温への到達時間は平均110分であり、特に体重が重いほど目標温への到達がおそい傾向にあった。復温後の体温上昇は平均0.7℃1時間で、復温から抜管までの時間は平均103分であった。覚醒遅延はみられなかった。術中合併症としてはシバリングと徐脈がみられたが、その他問題となるような合併症はみられなかった。シバリングの発生率は30.3%で、その発生と年齢、体重、末梢温とに有意な関係がみとめられた。現在、主要な手術操作開始までに目標温に到達させるために、いかに冷却速度をはやめるか、術後シバリングをどのようにすれば軽減できるか、また、軽度低体温は神経学的予後を改善するか、などを検討中である。
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