研究概要 |
33-35℃程度の軽度低体温が従来いわれてきた代謝の抑制では説明できないほど強力な脳保護作用があることが動物実験で明らかになり、脳外科手術などへ臨床応用が期待されている。我々は、奈良県立医科大学にて施行された脳外科手術130例に対し軽度低体温療法を施行した。麻酔は笑気、酸素、フェンタニール及びセボフルランにて行った。体温管理は体温調節装置(アムコ American Medical System)及び温風気式加温装置(マリンクロット、Warm Touch)を用いて行い、鼓膜温が35℃で冷却を中止し、34.5℃を目標温とした。体温測定は、鼓膜温、鼻咽頭温、直腸温、末梢温にて行った。結果、最低温は34.4±0.4℃で、最低温までの到達時間は101±52分、平均冷却速度は1.3±0.8℃/hであった。低体温維持時間は125±89分、復温から抜管までの時間は103±32分、復温速度は0.7±0.3℃/hであった。冷却速度と関係する因子としては、体重/体表面積比率と有意な負の相関が認められた。シバリング発生は最も大きな問題で、30%の症例で術後シバリングが発生した。シバリング発生に関係する因子として、中枢温、末梢温、年齢、体重が考えられた。また、術中血管拡張療法としてのプロスタグランディンE1(PGE1)の有用性を検討した。84例をPGE1の投与量により3群(0,0.02,0.05μg/kg/h)の3群に分けた。0.05μg/kg/h投与で復温時の直腸温の上昇は有意に高かったが、鼓膜温の変化は3群で有意な差はみられなかった。術後の創部感染および入院日数も常温管理群と差は見られなかった。
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