研究概要 |
実験1:サイトカインの一つであるインターロイキン1β(IL1β)は,炎症や急性循環不全が起こると免疫細胞から分泌され,様々な作用を全身におよぼす.神経系においては免疫細胞や神経膠細胞から分泌され,神経系組織や間葉系組織に作用してPGE_2,substance P,glutamate,一酸化窒素の放出や産生を促進したり誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の遺伝子発現を促し,痛みに影響を与える可能性を持っている.そこで脊髄におけるIL1βの痛みへの関与を調べるために以下の実験を行った.くも膜下腔カテーテルを留置したラットのくも膜下腔にIL1βを10ng,100ngまたは1000ng投与し,ポ-プレッシャーテスト(圧刺激疼痛試験),ホットプレートテスト(熱刺激疼痛試験)を行った.100ng投与後60分で,ポ-プレッシャーテストにおいてのみ明らかな痛覚過敏を引き起こした.他の投与量では有意の変化は見られなかった.実験2:IL1βの受容体にはTyrosine kinase(PTK)が関与している.また,炎症が起こると引き続いて免疫細胞からIL1βが産生される.PTK阻害薬を投与すれば炎症による疼痛の発生を抑制できる可能性があると考え実験を行った.起炎症物質であるカラゲニン(K)とカオリン(C)を混合しラットの尾骨基部の関節に注入し炎症を人工的に発症させた.この処置の4時間後に後肢における機械的刺激に対する痛覚過敏がポ-プレッシャーテストにより確認された.K,Cの注射の前にくも膜下腔よりPTK阻害薬であるlavendustin Aを1μg投与しておくと痛覚過敏の発生が阻止された.以上の実験からサイトカインの一つであるIL1βは脊髄に作用して痛覚過敏を引き起こし,炎症による慢性疼痛にもPTKを介して関与していることがわかった.
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