研究概要 |
本研究では、当初、全身麻酔に用いられる薬物について、その静脈内ボーラス投与後の連続的な血中濃度測定に基づく分布容積と生体インピーダンス法(bioimpedance analysis,BIA)に基づく推定体液区分量(主として細胞外液量)の関連性を検討することが目的であった。しかし、従来のBIAによる測定法(whole body BIA)では、体液量分布が各身体部分において均一でないため、全身で測定したインピーダンスに基づく体液組成の推定には、著しい誤差を含む可能性が高いと考えられる。従って、まず、その精度を向上させる目的で、身体各部分より求められたsegmental BIAとwhole body BIAの比較検討を行った。その結果、後者では細胞外液量を過少推定する傾向が認められ、この点で、前者の優位性が実証された。一方、周術期の組織損傷は、炎症や浮腫による体液量とその分布に劇的な変動を生じ、結果として、薬物動態にも多大な影響を与えることが予想される。そこで、BIAに対する組織構造変化の影響を評価する目的で、周術期患者における生体インピーダンスの経時的変化から、損傷組織構築と体液動態変化の関連性に検討を加えた。組織構築の評価には、colloid suspension modelを発展させた理論モデルを独自に提唱し、生体インピーダンス変化との良好な相関関係を得ることが可能であった。しかし、BIAに基づく推定細胞外液量を薬物の至適役与計画に役立てるには、その絶対値としての信頼性を確立することが欠かせず、特に周術期においては、未だ誤差を生じる可能性が高い。従って、BIAによる体液推定の理論的根拠を確立し、より精度の高いパラメータを抽出することが今後の課題である。
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