電子スピン共鳴装置(ESR)を用いた血中nitrosyl-hemoglobin(NO-Hb)測定を中心に、臨床患者での変動を検討するとともに、敗血症性、脱血性、内臓虚血ショックモデルにおけるNO-Hb変動の時間経過を計測し、NO合成阻害薬およびNO捕捉薬による血中NO-Hb変動とショックの進展につき検討した。また、各種ショックモデルからの摘出心で測定した心機能およびカテコラミン感受性と血中NO-Hb増加度との関連につき検討した。臨床研究として、集中治療室入室敗血症患者および食道癌手術患者でのNO-Hb測定を行ったが、いずれも測定感度以下であった。Dithionite付加により血中NOxをすべてNO-Hbに置き換えて測定しても同様であり、臨床ではNO発生量が少ない可能性と臨床治療下では測定感度を改善する必要性が示された。ショックモデル実験でのNO-Hbは、同様の生存期間とした3種のショックモデルのうち、敗血症性ショックにおいて最も増加を示し、腸管虚血再潅流モデルでは有意なESRスペクトラが観察できなかった。NO関連薬では、NO合成阻害薬(L-NAME)および選択的誘導型NO合成阻害薬(L-canavanine)では生存期間に有意差が認められず、NOラジカル捕捉薬(Carboxy-PTIO)でのみ生存期間の延長を認めた。NO-Hbは主に誘導型のNOの動向を示すとともに、適切な量の構成型NOの維持が重要であると考えられた。摘出心の心機能からみた場合、各種ショックモデルでのNO-Hb増加度と心収縮力抑制度およびカテコラミン感受性低下度に相関を認めた。ショックモデルでの心機能抑制には誘導型NOの関与が強いと考えられ、NO-Hbがショック時の心機能抑制の指標ととなる可能性が示された。
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