陽圧換気による肺損傷は過膨張だけでなく、肺の虚脱・再拡張の繰り返しによる末梢気道のストレスによっても発症する。肺胞の虚脱はdependent regionで発生しやすいが、仰臥位と腹臥位とを比較すると腹臥位の方が胸腔内圧の分布は均等であり、dependent regionの肺虚脱は発生しにくいものと考えられる。このため、腹臥位では肺損傷が発生しにくい可能性がある。本研究では、この仮説が正しいかを調べた。 家兎を気管切開し、pentobarbitalとpancuroniumの持続注入下に仰臥位または腹臥位で機械的人工呼吸を行った。換気条件はCMVモード、酸素濃度50%、呼吸回数30/min、吸気流量15L/min、最高気道内圧30cmH_2O、PEEP0cmH_2O、吸気時間0.6secとした。PaO_2が100mmHg以下となった時点または5時間経過した時点で、肺を取り出し肺損傷の程度を比較した。 仰臥位群では陽圧換気開始3時間以内にPaO_2<100mmHgとなった。腹臥位群では1羽もPaO_2が100mmHg以下とならなかった(5時間後のPaO_2261.3±15.0)。肉眼的には取り出した肺は仰臥位群では背側が出血様変化をきたしていたが、腹臥位群では著明な変化を認めなかった。組織学的には仰臥位群では硝子膜形成、炎症細胞の浸潤がありdiffuse alveolar damageの所見を認めた。 肺胞の虚脱・再拡張の繰り返しによる肺損傷の存在を直接支持するデータはない。仰臥位群と腹臥位群での肺損傷発生の差は、仰臥位で解剖学的にdependent regionで虚脱が発生しやすいためと考えられる。仰臥位でdependent regionに肺損傷が発生したことから、虚脱・再拡張により肺損傷が発生することを間接的にではあるが証明した。
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