陽圧換気による肺損傷は過膨張だけでなく、肺の虚脱・再拡張の繰り返しによる抹消気道のストレスによっても発症する。医原性肺損傷を防ぐことは、呼吸管理上もっとも重要なことの一つである。これに基づき、肺胞・抹消気道の虚脱を防ぐためにPEEP用いて呼気終末の肺容量を十分維持すること、吸気時の気道内圧をできるだけ低く保つことが推奨されている。しかしながら、注目されているのは呼吸器の設定ばかりであり、患者の状態については考慮されていない。本研究では、人工呼吸器の設定ばかりではなく、患者側の因子が肺損傷の発生にどのように関わっているかを家兎を用いて検討した。 家兎を気管切開し、pentobarbitalの持続注入下に機械的人工呼吸を行った。換気条件はCMVモード、呼吸回数30回/分、吸気流量10L/分、吸気時間0.6秒と設定した。体位(proneまたはsupine)、PEEP(0または5cmH_2O)、PIP(20または30cmH_2O)、F_IO_2(0.5または0.21)、筋弛緩の有無により、30羽の家兎を5羽づつ6つの群に分けた。筋弛緩はPancuroniumを持続投与することにより行った。F_IO_2 0.5の群ではPaO_2が100mmHg以下、F_IO_2 0.21の群では60mmHg以下となった時点、または5時間経過した時点で肺を取り出し、損傷の程度を組織学的に比較した。 仰臥位、PIP/PEEP 30/0、筋弛緩の条件ではF_IO_2に関わらず5時間以内にPaO_2が低下した。その他の群では5時間以内にPaO_2が100mmHg以下となった家兎はいなかった。組織学的にはPaO_2の低下した群で硝子膜形成、炎症細胞の浸潤、弾性繊維の断裂がありdiffuse alveolar damageの所見を認めた。 機械的人工呼吸により肺損傷が発生することは広く知られている。しかし、人工呼吸器の設定条件以外の因子、特に患者側の因子についてはほとんどデータがない。本研究で体位や筋弛緩の有無により肺損傷の発生が影響された。これは人工呼吸器の設定条件だけではなく、患者の体位や自発呼吸の有無も肺損傷の発生に影響していることを示すものである。
|