研究概要 |
嘔吐中枢とされる第4脳室底の延随化学受容器引き金帯や、延随孤束核の脳切片神経細胞標本から、ブラインドパッチクランプ法による細胞内記録は安定せず、セロトニン3型(5-HT_3)受容体活性化陽イオン電流(5-HT_3電流)も、殆どが100pA以下と非常に小さかったため、吸入麻酔薬の作用を調べるまでに至らなかった。 そこで5-HT_3受容体が密に存在する、頚部副交感神経節の培養神経細胞標本を用いて実験を行い、以下の結果を得た。1.5-HT及び5-HT_3受容体作働薬2-methy1-5-HTは、42%(36/86)の細胞において内向き電流を誘起した(固定膜電位-50-60mV)。内向き電流の逆転電位は4±2mV(平均値±標準偏差,n=8)、5-HT_3受容体拮抗薬ICS-205-930の抑制効果から、内向き電流は5-HT_3電流と同定された。2.吸入麻酔薬のうち、ハロセンは臨床濃度(0.8mM)で5-HT_3電流を投与前値の146±16%,n=4)に増強したが、高濃度(2.4mM)では投与前の50±15%(n=4)に抑制した。3.イソフルレンは臨床濃度(0.6mM)で5-HT_3電流を125±12%(n=4)と軽度増強したが、高濃度(1.9mM)でも90±7%(n=4)で抑制は見られなかった。4.セボフルレンは濃度依存性に5-HT_3電流を抑制し、臨床濃度(0.6mM)で投与前の67±12%(n=5)、高濃度(1.7mM)では28±10%(n=5)であった。 本研究結果はその機序は不明であるが、吸入麻酔薬の種類により5-HT_3電流に対する影響が異なることを示している。臨床麻酔濃度では、セボフルレンは抑制効果を、ハロセンとイソフルレンは増強効果をもたらす。5-HT_3受容体の活性化が嘔吐反射に深く関与している点からすれば、セボフルレン麻酔はハロセンやイソフルレン麻酔に比べ、術後の悪心、嘔吐の発生を軽減するのに有効と思われる。
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