我々は早期前立腺癌を効率よく診断し、適切な治療を早期に行うため、前立腺特異抗原(PSA)のアイソザイム・パターンの分析を行った。PSAにはα1-アンチキモトリプシン(ACT)と結合した結合型PSAと蛋白とは結合していない遊離型PSAが存在する。我々はPSAの存在パターンにより早期前立腺癌と前立腺肥大症をPSA単独の値によるよりも正確に鑑別する事ができた。以下にその概要を報告する。我々は結合型PSAと遊離型PSAの存在パターンを表するためにFree/total PSA indexを用いた。Free PSAは抗γ-セミノプロテイン抗体(遊離型PSAのみを確認する抗体)を用いて酵素抗体法により測定した。total PSAは結合型PSAと遊離型PSAのいずれをも認識するPSA抗体を用い、radioimmunoassay法により行った。Free/total PSA indexはfree PSA値をtotal PSA値で割って求めた。PSA値が10ng/ml以下の早期前立腺癌と前立腺肥大症患者のPSAを比較すると、A2の前立腺癌と前立腺肥大症との間にはPSA値に有意差はなかったがFree/total PSA indexは有意にA2前立腺癌の方が低い値であった。A1前立腺癌と前立腺肥大症との間にはPSA、Free/total PSA indexともに有意差を認めなかったが、A1前立腺癌については治療の必要がないとされているので診断する価値は少ないものと思われる。PSAとFree/total PSA indexの診断効率を比較すると、Sensitivityは両者ともほぼ等しくなるが、その時のSpecificity、Positive predictive value、Oveall accuracyはFree/total PSA indexの方がPSAに比べ15〜20%高い値を示した。このように、アイソザイムであるPSAの存在パターンにより前立腺癌を診断しようとする試みはSensitivityを犠牲にすることなくSpecificityを向上させる事ができた。今後はさらにアイソザイム・パターンを詳細に分類してより正確に前立腺癌を診断してゆく予定である。
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