腎癌原発巣由来細胞株SMKTR-1、-R2、-R3、-R4、および、腎癌転移巣由来細胞株TOS-1、TOS-2、ACHNにおけるTGF-β1、typeI、typeIIレセプターのmRNA発現を下記の如く検討した。 (1)分子生物学的方法(RT-PCR)によるmRNAの解析 1.TGF-β1のmRNA発現は、転移巣由来と原発巣由来の腎癌細胞株間で明らかな差は見られなかった。 2.typeIレセプターのmRNA発現は、転移のない原発巣由来のSMKT-R1およびSMKT-R2では、他と比べて低い傾向であった。3.typeIIレセプターのmRNA発現は、転移巣由来の細胞株中TOS-2では、ACHN・TOS-1と比べて低値であった。 4.各々の細胞株におけるtypeIレセプターのmRNA発現の程度の差は、typeIIレセプターのmRNA発現の程度の差と同様の傾向を示した。 (2)免疫学的手法による蛋白発現の解析 1.フローサイトメトリーでは、いずれの細胞株でも、TGF-β1、typeI、typeIIレセプターの発現が見られたが、定性的な解析であり、細胞間での発現の比較は困難であった。 2.免疫組織染色では、いずれの腎癌細胞株でもTGF-β1の発現が確認されたが、typeIおよびtypeIIレセプターは、いずれの腎癌細胞株でも確認されなかった。 今回の研究では、腎癌細胞株でのTGF-β1mRNA発現は、転移巣由来のものと原発巣由来のものとで明らかな差は見られなかったが、typeI、typeIIレセプターのmRNA発現においては細胞によっては発現の仕方に差が認められた。TGF-β1の機能、特に腎癌の転移に関わる機序は、おそらくTGF-β1そのものの発現よりはむしろtypeI、typeIIレセプターの発現によって制御されているものであることが示唆された。
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