これまでの実験結果からラット大脳皮質前3分の1の内側や外側の部分除脳では排尿閾値膀胱容量がそれぞれ増加または減少したが、部分除脳の2週間後にはいずれの部分除脳群でも元の排尿閾値容量に回復した。そこで、これら部分除脳ラットの2週後の脳脊髄内神経成長因子(NGF)とc-fos蛋白の発現部位をコントロールラットと比較した。 脳脊髄を凍結切片とし、NGF抗体またはc-fos抗体を作用させ、標識細胞の局在部位を検索した。その結果、内側及び外側の部分除脳ラットでは、コントロールに比べてNGF抗原抗体反応が全体的に薄く見られた。三叉神経中脳路核と橋灰白質の細胞は明らかに標識されていたが、報告されている排尿関連の領域ではコントロールとの明らかな差を確認できなかった。脊髄では内側部分除脳ラットで腰仙髄の後角が他の灰白質よりも濃く標識される傾向があった。c-fosに関してはコントロールラットでも、部分除脳ラットでも、c-fos発現細胞を認めなかった。 ラットでの組織化学的検討で十分な結果が得られなかったため、神経の可塑性に関してネコの脊髄後索切断の排尿に及ぼす影響を経時的に観察した。初めに、上丘前縁で除脳したネコを用いたが、胸髄後索を切断しても反射性排尿のパラメータに変化はなかった。次に、胸髄後索を切断した慢性ネコで経時的に非拘束状態で排尿量や排尿姿勢を観察したところ、1週間後までは一回排尿量が有意に減少し、5頭中1頭では膀胱知覚が消失し、反射性尿失禁の状態となった。しかし、2週間後には一回排尿量は元の量に回復し、膀胱知覚の消失していたネコの知覚も回復した。 膀胱の知覚は後索を上行する後索内側毛帯系と側策を上行する脊髄視床路の2経路が知られているが、後索の障害で脊髄視床路を介する知覚伝達路が後索系の働きを完全に補うように変化したと考えられた。
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