本年度はまず、これまでの続きである一側大脳皮質前方内側(内側除脳群)と外側の部分除脳ラット(外側除脳群)の膀胱容量が除脳前のレベルに回復する2週後に、C-fosやNSEのmRNAの脳内発現部位を検討した。その結果、c-fos-mRNAはコントロール群を含む3群の多くのニューロンで発現し、NSE-mRNAは逆にどの群でも発現ニューロンは極少数で薄く、群間でこれらの発現に差を見いだせなかった。したがって、大脳皮質障害に伴う排尿障害からの自然回復の課程はこれらの手法では捉えられないほど軽微な変化と考えられた。 次に、前年度に脊髄後索損傷からの排尿障害の回復を検討したことから、完全脊損に伴う尿閉機構について検討した。まずラットの腰仙髄を取り出し、腰仙髄中の興奮性神経伝達物質のグルタミン酸、アスパラギン酸と、抑制性神経伝達物質のグリシン、GABAの量をキャピラリー電気泳動法で測定した。胸髄での脊損1日後の腰仙髄にはグルタミン酸とグリシンが増加していた。脊髄正常ラットで脊髄髄腔内にグルタミン酸を投与したところ、腰仙髄内のグリシンが増加した。グルタミン酸受容体遮断薬のMK-801の投与では各物質に明らかな変化はなかった。脊損1日後のラットの脊髄髄腔内にMK-801を投与すると腰仙髄内グリシンは減少した。したがって、脊髄グルタミン酸ニューロンは自発発火ニューロンで通常は上位中枢から抑制されていると考えられた。脊損で抑制がとれたグルタミン酸ニューロンは自発発火し、グリシンニューロンを興奮させ、グリシンニューロンは運動ニューロンや自律神経ニューロンを抑制して弛緩性麻痺となることが考えられた。一方、脊損急性期でも外尿道括約筋は収縮して尿閉となるが、この筋を支配するOnuf核ニューロンにはグリシンニューロン支配は無いか少ないと考えられた。
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