1. 部分的除脳に伴う排尿異常とその回復過程を検討した。ラット-側大脳皮質前方内側の部分除脳では膀胱容量が増加し、前方外側部分除脳では膀胱容量が減少したが、2週後にはいずれも元の容量に回復した。しかし、橋排尿中枢へのHRP注入神経標識実験と、神経成長因子、c-fos、c-fos-mRNA、NSE-mRNAの脳内発現実験では障害からの回復課程は捉えられなかった。 2. 脊髄後索障害に伴う排尿異常とその回復過程を検討した。中脳除脳ネコの胸髄後索損傷では反射性排尿に変化はなかった。胸髄後索損傷の慢性ネコでは膀胱容量の減少と尿意消失があったが、2週後には元の状態に回復した。膀胱知覚経路は後索系と脊髄視床路があるが、後索系が尿意の主経路であり、後索障害では脊髄視床路が後索系の機能も果たすことが示唆された。 3. 完全脊髄損傷に伴う尿閉機構とその回復過程を検討した。ラットの腰仙髄中の興奮性伝達物質のグルタミン酸、アスパラギン酸と、抑制性伝達物質のグリシン、GABAを電気泳動法で測定した。正常ラットで脊髄腔内にグルタミン酸を投与したところ、腰仙髄内のグリシンが増加した。胸髄での脊損1日後の腰仙髄ではグルタミン酸とグリシンが増加し、脊髄腔内にグルタミン酸受容体遮断薬を投与すると腰仙髄内グリシンは減少した。したがって、脊髄グルタミン酸神経細胞は通常は上位中枢から抑制されているが、脊損で抑制がとれたグルタミン酸神経細胞はグリシン神経細胞を興奮させ、グリシン神経細胞は運動神経細胞や自律神経細胞を抑制して弛緩性麻痺となることが考えられた。一方、脊損急性期に外尿道括約筋は収縮して尿閉となるが、この筋を支配するOnuf核細胞にはグリシン支配は無いか少ないと考えられた。脊損慢性期にはグルタミン酸とグリシンが減少したことから、慢性期の痙性麻痺はグルタミン酸神経細胞の活動性の低下からグリシン神経細胞の活動性が低下したためと考えられた。
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