臨床的には、4名の過活動性膀胱患者に対して埋め込み型の仙髄根神経刺激装置を埋め込み、埋め込み手技の確立をめざした。これら4名においては特に合併症を認めずに埋め込みが可能で、手技的にも容易であった。また4-6カ月間の経過観察においても埋め込みに伴う副作用を認めなかった。また基本的に重要な所見として、長期の治療においても刺激の閾値に変化がほとんど認められず、長期の電気刺激によっても神経を障害する可能性が極めて低いものと考えられた。またこれら4例のうち3名において、尿失禁の著しい改善を認めた。 基礎的には、まず急性電気刺激における膀胱壁内のNeurotransmitterを計測した。電気刺激により、膀胱壁内のNorepinephrine量が増大する傾向を認め、またこの現象が刺激終了後も数時間継続することが明かとなった。したがって、電気刺激による膀胱の交感神経系の賦活化作用は何らかのメカニズムを介して刺激時以外にもその効果を発揮し得ることが推測される。この現象は臨床例において、刺激時以外にも失禁の改善が認め得ることとよく一致している。また、電気刺激を行った患者においては髄液中のEnkephalinが上昇する傾向を認めた。この現象はまだ4例でのみの結果であり、今後症例数を増やす必要があるが、排尿機構にOpioido系が重要な位置を占めること、またOpioido系の賦活化による電位の変化がlong-lastingであることなどから、本系の関わりが電気刺激により生じる膀胱内のNeurotransmitterの変化を説明し得るものである可能性が推察された。
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