研究概要 |
75歳以上の剖検例において偶然発見された腫瘍経10mm以下の微小高分化型潜在前立腺癌35例並びに根治的前立腺摘除術で得られた臨床前立腺癌(pT2またはpT3)45例についてmicrosatellite領域PCR法を用いて染色体欠失並びに増幅(allelic imbalance;以下AI)を解析した。上記症例のパラフィン包埋標本からmicrodissection法を用いて癌細胞DNAを抽出した。同様に正常細胞DNAを、剖検例では腎臓のパラフィン包埋標本から、前立腺摘除術例では転移がないことを確認した所属リンパ節標本から抽出しコントロールとした。解析した染色体領域は、これまで臨床前立腺癌で有意なAIが報告されている7q31,8p22,10q21である。各々の箇所で4組のmicrosatellite primersを使用してPCRを行い、蛍光式DNAオートシーケンサーを用いて解析した。 臨床前立腺癌では、7q31,36%;8p22,46%;10q21,32%にAIを認めたのに対して、潜在前立腺癌では、7q31,11%;8p22,40%;10q21,9%と、有意に7q31,10q21でのAIが少なかった(p<0.01)。また臨床前立腺癌例のリンパ節転移巣のAIを解析したところ、8例中4例で原発巣のAIのパターンと異なっており、7q31におけるAIの頻度が転移巣で高い傾向を認めた。すなわち原発巣で優位なクローンが必ずしも転移巣を形成するのではなく、増殖、転移能の高いクローンが病期進行に関与することが示唆された。 以上より、1.8p22に存在する未知の癌抑制遺伝子の欠失が前立腺発癌の早期に生じること、2.7q31並びに10q21に存在する遺伝子の欠失あるいは増幅は臨床癌の成立と関連すること、3.7q31における変異が臨床癌の進行に関与する可能性があることが明らかにされた。
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