細胞周期を制御する遺伝子の一つであるp16(MTS1)の変異が各種の癌細胞株ににおいて高頻度に認められており、新しい癌抑制遺伝子として最近とみに注目されている。p16遺伝子は第9染色体短腕(9p)にマップされているが、本研究で対象としたヒト腎細胞癌までは原発腫瘍において9pのLOH(loss of heterozygosity)が約40%の症例に認められている。また、p16遺伝子の変異が進行性の癌に頻発することから癌の進展への関与を示唆する報告もある。今回われわれは腎癌の原発腫瘍および細胞株におけるp16遺伝子の異常を検索し、腎癌の発生・進展との関連性について検討した。これまでに原発腫瘍5例、細胞株13例(転移性腫瘍8株、非転移性腫瘍5株)についてサザンブロット法、PCR法によりp16遺伝子の構造を調べた結果、転移性7株(7/8=87.5%)、非転移性4株(4/5=80%)、合計11細胞株(11/13=84.6%)に異常を認めた。変異の内訳はhomozygous deletionが9株、メチル化1株、エクソン3の欠失が1株であった。また、RT-PCR法を用いて発現を調べたところ、メチル化が認められた認められた1株を除く10細胞株において発現が認められなかった。メチル化が認められた1細胞株では、メチル化を調べた培養細胞の継代数と発現をみた細胞の継代数とが異なるため、現在、継代数を調製し解析中である。これらp16遺伝子の変異は転移性、非転移性に関わらず高頻度に認められることから腎癌の形成過程において何らかの需要な役割を果たしている可能性が示唆される。今回解析した13細胞株のうち5例については原発腫瘍についても同様の方法により調べたが、これらの腫瘍組織では異常は認められず、細胞株にのみ異常が集中していることが明らかとなった。また、メチル化が認められた細胞株では、培養継代数の増加に伴って、第9染色体短腕の構造異常(欠失)が認められたこと、さらに継代が進むにつれてメチル化が確認されたことなどを考え併せると、p16遺伝子の変異は癌細胞株の樹立(培養系における癌細胞の不死化)に関連して異常である可能性も否定できない。
|