研究概要 |
第9染色体短腕 (9p) にマップされているp16遺伝子 (MTS1) は細胞周期を制御する遺伝子の一つで,この遺伝子の変異が各種の癌細胞株において高頻度に認められることから新しい癌抑制遺伝子として最近とみに注目されている。本研究で対象としたヒト腎細胞癌では原発腫瘍において9pの LHO(loss of heterozygosity) が約40%の症例に認めたれている。また,p16遺伝子の変異が進行性の癌に頻発するという報告もあり、癌の進展への関与が示唆されている。われわれはこれまで腎癌の13細胞株におけるp16遺伝子の異常を検索し,この遺伝子の変異が転移性、非転移性に関わらず高頻度に認められることを見いだした。本年度は新たに原発腫瘍5例におけるp16遺伝子の発現を調べたところわずか1例にのみ発現の消失が確認された。原発腫瘍と細胞株における解析結果を比較すると,p16遺伝子の異常は癌細胞の培養系における不死化に関与している可能性が考えられる。しかし、この変異が細胞株の樹立過程において起こった変化かあるいは既にp16遺伝子の異常を持つ癌細胞が in vivo において存在していたかは今後さらに解析を要する。これまでの9p領域の LOH の解析結果ならびに転移性腫瘍の染色体解析における9p欠失の頻度 (66%) を併せ考えると,9p欠失は腎癌の進展に関与しているがその標的遺伝子はp16ではない可能性も考えられる。本年度はまた,微小核細胞融合法により9p欠失を持つ細胞株に正常9番染色体の移入を試みたが細胞クローンを得ることが出来なかった。 今回はまた,これまで染色体異常の解析が終了した81例を転移性と非転移性に分類し,それぞれについて染色体異常の種類や頻度を詳細に再検討した。その結果,転移性腫瘍では上述した9p欠失に加え,1番染色体短腕 (1p) の欠失も高頻度に認められることが明らかとなった。今後,1p欠失と腎癌の転移との関連性ついても同様に解析を要する。
|