研究概要 |
ラット膀胱癌細胞株NBT-IIの継代中に自然発生した、親株とは形態を異にする細胞をクローニングし、5種類の亜株(NBT-T1,T2,L1,L2a,L2b)を得た。これらのうち、NBT-T1とT2(T系の細胞)は円形の密なコロニーを形成するのに対して、NBT-L1、L2a、L2b(L系の細胞)はより伸張した細胞形を示し粗なコロニーを形成した。いずれの細胞も増殖速度は高く、倍加時間はT1,13.4 hr ; T2,12.8 hr ; L1,16.8 hr ; L2a,15.6 hr ; L2b,14.2 hr であった。細胞外基質成分でコートされたプレート上で培養することにより、T系の細胞とL系の細胞の形態、運動性の差はより顕著になった。I型コラーゲンでコートされたプレート上では、L系の細胞はコロニーを形成せず、個々の細胞がほぼ完全に分散したのに対して、T系の細胞は細胞間接着が低下するものの、もとの形態を維持し、極度に伸長した形態を示すL系の細胞とは明らかに異なっていた。invasion chamberを用いて浸潤能を調べた結果、T2はほとんど浸潤活性を示さず、L1,L2a,L2bは各々T1の約3倍、9倍、23倍の活性を示し、細胞の形態、運動性と浸潤活性との間に明らかな相関性が認められた。癌細胞の浸潤、転移に関与することが知られている因子のうち、細胞接着因子と細胞増殖因子およびその受容体の発現を亜株間で比較した結果、L系の細胞ではE-cadherinの含量が低下し、さらにT系の細胞では細胞間接着部位にE-cadherinに局在するのに対して、L系の細胞では主として細胞質に存在していた。E-cadherinの機能発現に必須なcatenin(α,β,γ)の含量には亜株間で差がなかった。増殖因子とその受容体の中ではTGF-α mRNAの発現がL系の細胞で高かったが、L系の細胞の条件付け培地はT系の細胞の形態、運動性に影響を与えなかった。これらの結果は、E-cadherinの発現の低下が膀胱癌細胞の浸潤、転移能の増大に結びつくことを示している。
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