研究概要 |
昨年度の研究結果から、ラット膀胱癌細胞株NBT-IIの5種類の亜株(NBT-T1,T2,L1,L2a,L2b)のうち、in vitroで高い浸潤能を示すL系の細胞(NBT-L1、L2a、L2b)においてE-cadherinの含量が低下していることが明らかとなり、これがL系の細胞の浸潤能の増大と密接に関連している可能性が示唆された。NBT-II亜株におけるE-cadherinの発現をさらに詳しく調べた結果、通常、E-cadherinの発現はmRNAレベルで調節されているのに対して、NBT-II亜株においてはmRNA量とE-cadherin蛋白質量の間に相関性がなく、転写後の調節が重要であることが示された。さらに、抗E-cadherin抗体を用いたWestern blotにより、L系の細胞にのみ正常なE-cadherin(M.W.=127,000)より低分子量(114,000)の分子種が検出された。この結果は、L系の細胞が変異E-cadherin分子を発現しているか、あるいはE-cadherinの分解にL系とT系の細胞の間で差があることを示している。この点に関しては、今後L系細胞のE-cadherin遺伝子を解析して明らかにする必要がある。一方、L系とT系の細胞のconditioned medium(serum-free)中に含まれる蛋白質を分析した結果、分子量約65,000の蛋白質がL系細胞の培地中で増加していた。この蛋白質を部分精製し、PVDF膜にブロット後N-末端アミノ酸配列を決定したところ、epithelin precursorのN-末端配列と一致した。epithelinはteratoma由来の細胞株でautocrine growth factorとして機能していることが報告されており、ラット膀胱癌細胞においても細胞増殖や細胞の運動性を調節している可能性がある。epithelinに関しても、L系、T系の細胞に対する作用を検討する必要がある。
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