精細胞抗原は個体発生上遅れて発現し、かつ、免疫系とくに胸腺からかなり厳格に隔離されているので、臓器特異的自己抗原のなかで最も不寛容な抗原と考えられている。精巣炎誘導能を有する成熟同系精巣細胞(TC)をC3H/Heマウスの胸腺内に直接注射すると、抗原特異的に精巣炎の発症および細胞性・液性免疫応答が阻止されることを報告してきた。このことは成熟マウス胸腺においてもTCに対する自己反応性細胞が除去され、組織特異的な寛容の成立が誘導されることを示唆するものである。今年度は胸腺内でのTC処理機構について、胸腺リンパ球にアポトーシスを誘導し、アポトーシスリンパ球を消化しうる能力を有するマウスナーシング胸腺上皮細胞株とTCを直接注入した胸腺組織を用いて電顕的検索を行った。ナーシング胸腺上皮細胞とTCとを共培養したところ、ナーシング胸腺上皮細胞に侵入し包み込まれたTCは、上皮細胞内で変性を来し、周囲にはリソソームの出現とファゴリソソーム形成がみられた。TCを胸腺内に注射した場合にもマクロファージだけでなく、ナーシング胸腺上皮細胞内に同様の構造が認められた。また、acidic compartmentも存在していた。胸腺内に存在する胸腺ナ-ス細胞(ナーシング胸腺上皮細胞とナーシングマクロファージ)にアポトーシス細胞の消化能力があることは、シクロホスファミド投与マウス胸腺を用いて明らかにした。 ナーシング胸腺上皮細胞はMHCクラスII抗原を有し、BCG菌の貪食とその抗原提示能およびMIs-1^a抗原提示能を有しており、TCの場合にもナーシング胸腺上皮細胞による抗原提示がなされたものと思われる。
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