ラット腎組識スライスにセファロリジン(CER)、ゲンタマイシン(GM)、シスプラチン(CDDP)、メソトレキセート(MTX)などの薬剤を添加して短時間培養を行い培養液中に出てくるNAG、γ-GTP、LDHを測定した。CER、CDDP、MIXでは薬剤濃度を反映した酵素濃度の上昇がみられたが、GMによる濃度依存性の酵素逸脱は認められなかった。本実験系では尿細管腔は閉塞しており、GMのように管腔側から尿細管上皮細胞に取り込まれるような薬剤の毒性は過小評価される可能性が示された。腎摘出術によって得られたヒト正常腎組織を用いた実験でもラットの場合と同様な結果が得られた。造影剤腎障害についても検討を行った。非イオン性低浸透圧性造影剤を用いた造影検査後のヒト尿中NAG、γ-GTP排泄を測定したところ、造影剤投与後に尿中NAG、γ-GTPが有意に上昇すること、また腎機能低下症例で尿中酵素が上昇しやすいことが判明した。非イオン性造影剤は、イオン性造影剤よりも腎毒性が少ないと考えられているが、腎スライス法を用いて非イオン性造影剤(iopamidol)とイオン性造影剤(datrizoate)の腎毒性を比較検討した。datrizoateによってラット腎スライスからはNAGの遊離が認められたが、ヒト腎スライスからのNAG遊離は軽度であった。γ-GTPはラット、ヒトともにdatrizoateの濃度に従って遊離がみられた。iopamidolによるNAG、γ-GTPの遊離は、ラットおよびヒトともに濃度依存的に増加した。同一ヒト腎皮質におけるdatrizoateとiopamidolの作用を比較すると、NAG、γ一GTPの遊離は同程度であった。腎皮質スライス法は、簡便で経済的な実験系であり、薬剤性腎障害の解析に有用と思われた。
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