研究概要 |
(対象と方法)前立腺癌で前立腺全摘術を行った3症例より手術断端として尿道側および膀胱側断端から組織を一部採取した。また,両側の骨盤内リンパ節郭清時にリンパ節を採取した。さらに,手術中に末梢血を採取し,Ficoll-Conray溶液比重遠心法により赤血球以外の細胞を採取した。遺伝子学的病期診断を行うために,これらのサンプルよりRNAを抽出後,ランダムプライマー逆転写酵素によりcDNAに変換し,PSA(prostate specific antigen)のプライマーを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った。その結果,PSA(RAN)が陽性であったものを前立腺癌細胞浸潤と判定し,従来の病理組織診断と比較検討した。(結果)3症例とも病理組織学的には,尿道側および膀胱側の切除断端および両側の骨盤内リンパ節に癌細胞の浸潤を認めなかった。遺伝子学的診断においては,手術断端およびリンパ節ともにPSA(RNA)が陰性であったのは1例で,他の2例のうち1例はリンパ節のPSA(RNA)は陰性であったが,尿道側および膀胱側断端の両方のPSA(RNA)が陽性であった。また,他の1例は右側骨盤内リンパ節と膀胱側断端でPSA(RNA)が陽性であった。血液中のPSA(RNA)は3例とも陰性であった。(考察)手術断端のPSA(RNA)が陽性に出た場合,前立腺癌の浸潤と正常前立腺組織の残存の可能性があり,現在その解釈方法について検討中である。一方,リンパ節でのPSA(RNA)の発現は前立腺癌のリンパ節転移の可能性が高いと思われる。今回の検討で1例ではあるが病理組織学的には転移の認められていないリンパ節にPSA(RNA)の発現を認めており微小転移の可能性が示唆された。今後,さらに多くの症例での検討が必要である。
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