【対象と方法】前立腺癌で前立腺全摘術を行う症例より両側の骨盤内リンパ節郭清時にリンパ節を採取し、一部を術中迅速病理組織検査に提出し残りの一部を標本とした。RNAを抽出後、ランダムプライマー逆転写酵素によりcDNAに変換し、PSA(prostate specific antigen)のプライマーを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った。その結果PSA(RNA)が陽性であったものを前立腺癌細胞浸潤と判定し、従来の病理組織診断と比較検討した。 【結果】佐賀医科大学および関連病院において検討可能であった前立腺全摘術は1996年度が3例、1997年度が10例、合計13例であった。これらのうち病理組織学的に骨盤内リンパ節に癌細胞の浸潤を認めたのは1例のみで他は病理組織学的に転移を認めなかった。遺伝子学的診断においては、組織学的にリンパ節に癌浸潤を認めた1例と癌浸潤を認めなかった12例中3例でリンパ節にPSA(RNA)の発現を認めた。1998年2月までの経過観察において画像診断で術後に転移あるいは再発を認めた症例はなかったが、PSA(RNA)のみ陽性であった3例中2例で血清PSA値(Delfia)が0.5〜0.9ng/mlで推移し術後に一度も測定限界値以下に低下しなかった。これらは現在も無治療で経過観察中である。 【考察】病理組織学的に骨盤内リンパ節転移を認めなかった3例で同部にPSA(RNA)の発現を認め、そのうち2例で血清PSA値が測定限界値以下に低下しなかったことより、PSA(RNA)がリンパ節に発現している症例では微小転移の存在が示唆された。今後、血清PSA値の推移を観察することにより遺伝子学的病期診断の意義を検討する予定である。
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