【目的】 早期前立腺癌患者の骨盤内リンパ節に微小癌転移が存在するか否かを遺伝子学的に検討した。 【対象と方法】 前立腺癌で前立腺全摘術施行時に両側の骨盤内リンパ節を採取し標本した。RNAを抽出後、ランダムプライマー逆転写酵素によりcDNAに変換し、PSA(prostate specific antigen)のプライマーを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った。その結果PSA(RNA)が陽性であったものを前立腺癌細胞浸潤と判定し、これらの結果と従来の病理組織診断を比較検討し、さらに術後の再発あるいはbiochemical relapseの有無を観察した。 【結果】 佐賀医科大学および関連病院において検討可能であった前立腺全摘術は1996年度が3例、1997年度が10例、1998年度が3例合計16例であった。これらのうち病理組織学的に骨盤内リンパ節に癌細胞の浸潤を認めたのは1例のみで他は病理組織学的に転移を認めなかった。遺伝子学的診断においては、組織学的にリンパ節に癌細胞の浸潤を認めた1例と癌浸潤を認めなかった16例中3例でリンパ節にPSA(RNA)の発現を認めた。1998年10月までの経過観察において画像診断で術後に転移あるいは再発を認めた症例はなかったが、病理組織診断でリンパ節転移を認めた1例とPSA(RNA)のみ陽性であった3例で血清PSA値が上昇した。これらは未だbiochemical relapseの範疇に入っていないため現在も無治療で経過観察中である。 【考察】 病理組織学的に骨盤内リンパ節転移を認めなかった3例で同部にPSA(RNA)の発現を認め、3例とも血清PSA値の上昇がみられたことより、PSA(RNA)がリンパ節に発現している症例では微小転移の存在が示唆された。
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