研究概要 |
[詳細な細胞遺伝学的検討]:当科および関連病院の紹介患者から性分化異常症と関連のある症例の血液細胞および皮膚由来線維芽細胞等の染色体について各種染色体分染法を用い,染色体のモザイク,欠失および過剰の有無を含め,詳細な検索を行った.その際,XX真性半陰陽では性腺(特に精巣部分)および外陰部皮膚の解析,XY真性半陰陽では精巣以外の部分の解析を可能な限り行った.転座,構造異常染色体の切断点あるいはマーカー染色体等の由来不明な染色体の同定には,FISH法を用いた解析を行った(星 信彦,藤本征一郎).その結果,臨床および細胞遺伝学的に性分化異常症が疑われた10症例19検体について,SRY遺伝子を含むY染色体の構造異常(欠失)の有無を調べるため,下記のようにPCR法を用いた遺伝子解析およびdirect sequencingを行った. [Y染色体関連遺伝子および座位の有無の検討](星 信彦):(1)SRY遺伝子の検出:性分化異常の臨床診断においては,全例,SRYおよびSOX9の有無を2種類のプライマー(1種類は同時にX由来のDNAを増幅する)を用いて検索を行った.SRY陽性のXY女性などの機能消失型の異常においてはSRYの,XX女性などでSRYが陰性の場合にはSOX9の塩基配列の解析が必要である.その際,PCR-SSCP (single-strad conformation polymorphism :一本鎖DNA高次構造多型)法を用いて,遺伝子の欠失および塩基置換の有無のスクリーニングを行い,次いでPCR直接塩基配列決定法により差異の特定を行った.(2)SRY以外のY染色体上の遺伝子座位の検出: Yの構造異常が疑われる症例(SRY陽性で正常Y染色体が存在しない例およびマーカー染色体などを有する症例)については,Y染色体短腕末端(PABY)から動原体に相当するDYZ3,長腕近位部の非蛍光部,さらにQ蛍光陽性部などの座位を特定することによりY染色体の領域の特定を8種類のプライマーを用いたPCR法により分析を行った.(3)性の分化機構の異常の検索:アンドロジェン不応症の診断は,患者の性腺および外陰部皮膚の培養細胞の[^3H]DHT binding assayによるアンドロジェン結合試験により判定した.その結果が陰性であった症例ではhAR-1プローブを用いてアンドロジェンレセプターの遺伝子検索をDNA,RNAレベルで遺伝子の発現を検索中である. 細胞遺伝学的手法を用いた染色体構造異常の解析では,微小マーカー染色体の由来,染色体転座における切断点や欠失の有無などを分析する上で,実際には解析不能な場合も少なくない.性分化異常の症例の多くは,性染色体に関連したモザイク,転座,欠失などが認められる.また,染色体には形態上の異常が認められない性の逆転患者の確認もされている.検索結果の詳細は省略するものの,今回の検討で染色体検査のみでは不明であったY成分の有無を明らかにすることができ,性分化異常症の発症の原因がY染色体以外にも存在する可能性を示すことができた.また,多胎妊娠における性分化異常に性決定遺伝子との関連にキメリズム,モザイシスムが密接に関与することも明らかにすることができた.
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