近年、良性あるいは悪性腫瘍癌細胞においてゲノム刷り込み現象の弛緩が報告されている。刷り込みを受ける遺伝子群は発生、成長に関わるもの、また癌抑制遺伝子も含まれており、これらが腫瘍細胞の異常な発育の一因となっている可能性がある。各種疾患に関わる成長因子として注目されるIGF2は刷り込み遺伝子群の一つであり、正常では父性片アレル発現しかしない。我々は今回、婦人科悪性腫瘍細胞株における同遺伝子の刷り込み弛緩現象と過剰発現を解析した。 19の腫瘍細胞株、及び66の摘出術後組織検体を対象に、IGF2のアレル特異的発現を、同遺伝子の3'非翻訳領域ApaI制限酵素多型を用いて検索した。細胞株では、情報が得られたものが4株(子宮頚癌2株、子宮体癌1株、卵巣癌1株)であり、うち卵巣癌株を除く3株に刷り込み弛緩現象が見られた。摘出術後組織では23検体に情報が得られ、うち刷り込み弛緩現象を認めたのは5検体であった(子宮頚癌2例中2例、子宮体癌5例中1例、卵巣癌16例中2例)。 さらに、IGF2の発現量を半定量的RT-PCRにて解析した。βアクチンを内部コントロールとしてRT-PCR産物発現量をデンシトメーターにて比較した。健常組織に比して、刷り込み弛緩現象を認めた検体では全例IGF2の過剰発現を認め、また制限酵素多型で情報を得られなかった例でも過剰発現を認めた(子宮頚癌14例中3例、子宮体癌11例中3例、卵巣癌18例中5例)。すなわち、検索し得なかった刷り込み現象の存在が示唆された。 婦人科悪性腫瘍細胞においても、IGF2の過剰発現が見られ、腫瘍発生機序に関わる可能性を示した。
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