研究概要 |
子宮頚癌発症の最大のリスクファクターと考えられているヒトパピローマウイルス(HPV)の感染の実態を知ることは、HPVの感染予防やワクチンの開発を考える上で不可欠である。日本人女性におけるHPV感染を血清疫学で調べるために、ヒト血清中の抗HPV抗体(抗L1抗体)の測定系を開発した。抗原はウイルス様粒子(VLP:バキュロウイルスベクター/夜盗蛾細胞系で大量に発現したHPV主要粒子蛋白L1が自律的に集合して形成する粒子)を用いた。子宮頚癌発症に関与すると考えられている16,18,58型と、尖圭コンジローマの原因ウイルスである6型の計4種類のVLPを作製した。各種VLPで免疫したマウス抗血清の反応から、VLPを抗原とする抗体測定系はVLPの立体構造を認識する型特異的な抗体を感度よく検出するものと考えられた。 子宮頚癌67例、その前癌病変であるCIN22例、尖圭コンジローマ38例、健常人女性201例の血清中の抗HPV L1抗体を、各種VLPを抗原とするELISAで測定した。HPV16、18、58のいずれかに対する抗体はCIN患者血清の45%、子宮頚癌患者血清の49%に検出され、一方HPV6に対する抗体は尖圭コンジローマ患者の55%に検出された。これらの検出率は、各々年齢分布を合わせた健常人女性血清(各々13%、25%)に比べ有意に高く、またこれらの疾患から検出されるHPV DNAのデータと良く合致する。これは、我々の抗体測定系の信頼度が十分高いことを示している。一方、健常人血清にもHPVに対する抗体が検出され、HPVの不顕性感染が広く起こっていることが推定された。 現在、子宮頚癌の発癌機構に関する分子生物学的検討のほか、HPVワクチンの開発を念頭に置いてHPV感染に対する免疫学的検討を進めている。
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