副腎の褐色細胞腫より見いだされた新しい血管拡張性の降圧ペプチドであるアドレノメジュリン(AM)の妊娠・分娩・産褥期における母体血中濃度を測定してその推移を検討し、母体血中の胎盤由来各種ホルモン動態との関連性も探求した。さらに、ヒト胎盤組織におけるAMの発現について、免疫組織学的・分子生物学的に検討した。妊娠初期、中期、後期での正常妊娠症例、および産褥期婦人や非妊娠婦人から静脈採血し、血漿中AM値を特異的RLAにて測定した。同時に、母体血中hCG、hPL、estradiol(E2)、progesterone(P)も測定し、胎盤機能との相関を求めた。さらに、ヒト妊娠初期および満期胎盤組織におけるAMの発現について、ABC法により免疫組織学的に検討した。また、ヒト胎盤より絨毛膜・脱落膜・羊膜を分離しそれぞれの組織中よりtotalRNAを抽出した後、AMのmRNAの発現をノーザン・プロット法にて解析し、AMの存在とその分布についても探求した。 血中AM値は、非妊娠時3.0±0.4fmol/ml(mean±SE)、妊娠初期3.4±0.7、中期3.5±1.9、後期7.3±2.8、産褥期4.1±1.9を呈し、妊娠後期は初期・中期に比し有意な高値を示し、産褥期に低下した。母体血中AM値とE2、P、hPL値との相関係数は各々0.53、0.64、0.50で有意な相関が認められたが、hCGとの相関はなかった。免疫組織染色により、ヒト胎盤中の羊膜上皮細胞にAMの免疫活性の発現が確認されたが、初期・満期の絨毛細胞や脱落膜細胞には発現は見られなかった。妊娠初期および満期のヒト胎盤にはAM mRNAの位置(1.6kb)に一致したバンドが現われ、AM mRNAであることが確認された。満期胎盤のAM mRNAのバンドは妊娠初期のバンドよりも発現が強く、この結果は、母体血中AM濃度が妊娠末期に上昇するデータや、胎盤の羊膜上皮細胞の免疫組織染色法で得られた結果とほぼ一致した。以上の結果により、妊娠中の胎盤由来のAM産生・分泌能は胎盤機能と深い関連性を有することが強く示唆された。
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