研究概要 |
手術により摘出した正常組織を無血清培地上で初期培養し、その培養上清中のMMPとTIMPの酵素活性をザイモグラフィーおよびリバースザイモグラフィーにより検討したところ、腹膜では他の正常組織に比べてMMP-9の分泌が多かった。また卵巣ではTIMP-1が強く、これらの組織特異的な分泌について更に研究している。この組織培養上清を卵巣癌細胞株に添加すると、腹膜ではMMP-9を卵巣ではTIMP-1を他の正常組織培養上清に比して有意に強く誘導した。その結果に基づきfibronectin,laminine,collagen type IVで卵巣癌細胞株を刺激するとfibronectinが濃度依存性にMMP-9を誘導した。更にfibronectinのレセプターであるintegrin α5の中和抗体およびRGDペプチドで細胞株を前処置しておくとfibronectinによるMMP-9の誘導が抑制された。また腹膜培養上清中には培養時間に依存してfibronectin量が増加することを確認した。従って、腹膜培養上清によるMMP-9の誘導はfibronectinが中心的役割を果たしていると考えられた。腹膜培養上清は濃度依存性に卵巣癌細胞株の基底膜浸潤能を促進し、その効果はインテグリンα5の中和抗体及びRGDペプチドの添加により有意に抑制され、この結果はMMP-9の分泌の変化と良く一致していた。この結果から、腹膜より分泌されるfibronectinは卵巣癌細胞のMMP-9の分泌を促進し、その結果として基底膜浸潤能を促進することが示唆された。
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