研究概要 |
胎児は分娩を境に体外生活に移りその環境は一瞬の内に非常に大きく変化する.このため,出生前より胎児はこの変化に適応するため,種々の合目的的調整を行っている.今回,この時期の胎児・新生児の適応現象における成長因子の役割を中心に検討を進めている. これまでの研究により,以下のことが判明した. 1)出生後,母獣からの乳汁分泌が十分となり,哺乳が確立するまでの間,母乳中,特に初乳に大量に含まれる上皮成長因子(EGF)が重要な役割を果している.EGFは膵臓に作用しインスリン分泌を促進し,インスリン/グルカゴンのモル比を上昇させ,糖代謝をanabolismの方向に偏移させることにより,出生直後の母乳栄養が確立するまでの児の発育を助けている.また,EGFは新生児消化管のalkaline phosphatase,treharase,γ-GTPなどの酵素を誘導し新生児発育に有意義な働きをしている. 2)ポリアミンは細胞増殖に必須の物質であり,その律速酵素であるオルニチン脱炭素酵素(ODC)は細胞増殖の初発過程で必ず上昇する.このODCの特異的阻害物質であるDFMOを母体に投与すると,流産あるいは発育遅延を起こす.DFMOは胎盤を通過し直接胎児にも作用するが,DFMO投与によりODC活性は他臓器に比し胎盤で著明に減少するため,胎盤障害により胎児発育障害が引き起こされている可能性が最も高い.また,DFMOによる胎盤障害の機序の1つとしてApoptosisが関与している可能性があり,現在データ集積中である. また,出生後ラット新生仔にDFMO投与すると,発育障害,消化管酵素活性低下を引き起こす. 3)胎児期に大きな変化を及ぼすヘム代謝の研究では,胎盤がヘム代謝に関与していることが示された.すなわち,ヘム分解系の律速酵素ヘムオキシゲナーゼ(HO)mRNAは胎盤において特異的な高値を示し,妊娠16-17日をピークとし,出産にむけ減少し,出生後は生後3日に軽度再上昇した.
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