平成8年度は、健康男性18名および不妊男性(体外受精や顕微受精実施予定患者)11名を対象に、以下の検討を行った。 1精子のパーコール処理分画における精子運動能、先体反応率とその分画における精子染色体異常率の検討 2精子のswin-up処理分画における精子運動能、先体反応率とその分画における精子染色体異常の検討 その結果、多くの検体において、パーコール処理、swin-up処理によって原精液に比較して有意に運動率や運動能(コンピュータ精子運動解析により20μm/ml以上の全身運動速度を示す精子の比率)の良好な精子を選択的に回収することが可能であった。しかし、原精液所見が非常に不良な検体では、これらの処理によってもその後の分析に必要な十分量の精子を確保することが困難であり、新たな分離法(たとえば、マイクロ・マニピュレーターの使用)の開発が必要と考えられた。 なお、十分な検体が得られた例における分析では、これまでのところ、 ・処理分画では先体反応率は向上する、すなわち運動量や運動能の良好な精子は先体反応機能も良好である。 ・処理分画では染色体異常率(異数性精子)が若干低下傾向にある(有意差を明らかにするには、今後も分析数を増加する必要がある)。 という成績が得られた。 ただし、臨床的に最も重要な重症男性不妊例についてこれらの成績が当てはまるか否かについては、上記の方法論的な理由で今のところ不明といわざるを得ない。なお、透明帯除去ハムスター卵子に付着した精子に関する検討は、まったく新しい分析法であり、現在標本の処理法などを検討中である。
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