平成8年度の研究ではFISH法を用いて染色体の数的異常を検討し若干の知見を得たが、あらたに判明した問題点として、FISH法での異常率は非常に低く(1個の染色体あたり0.1%前後)、このため多数例について受精能の良否別あるいは処理前後で異常率を比較しその有意性を検討することは研究期間内には不可能と判断された。そこで、9年度は、出現率がより高率な他の指標を導入して研究を遂行することに変更し、アクリジンオレンジ染色法(以下、AO法)を用いて以下の成績を得た。 1 不妊患者を含む71名の男性を対象に、まず、妊娠歴の有無、配偶者の不妊因子の有無別に男性の臨床的妊孕性を3群に区別してAO法による成熟度(緑染精子の頻度)を比較したところ、、3群間の成熟度(23.4%から29.2%)に差は認められなかった。 2 精子受精能のin vitroの指標である先体反応率は上記の妊孕性と良好な相関を示したが、先体反応率とAO法による成熟度の間には相関はなかった。 3 原精液からswim-up法で運動性良好な精子を選択、回収し、処理前後でのAO法による成熟度の変化を検討したところ、3群ともに成熟度(19.5%から22.3%)の有意な変化はなく、また群間での差も認められなかった。 以上から、今回の研究では、精子の成熟度と受精能の間に明らかな関連はなく、これから仮に受精能の低い精子を生殖医療によって人為的に授精させたとしても、このことが直ちに未熟精子に起因する異常受精卵の増加には直結しないと結論された。
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