研究概要 |
1)ヒト卵巣癌細胞の培養上清および悪性卵巣腫瘍内容液が引き起こした線維芽細胞におけるα-SMAの発現低下は悪性度に依存した現象なのか否かについて検討するために、3Y1線維芽細胞の培養上清に手術時得られた良性ないしは悪性の卵巣腫瘍内容液を添加し、線維芽細胞におけるα-SMAの発現変化をウエスタンブロット法を用いて両者間で比較した。悪性卵巣腫瘍内容液はα-SMAの発現低下を引き起こし、その低下は血小板由来成長因子(PDGF)の中和抗体添加により、ほぼ全例で濃度依存性に回復した。一方,良性卵巣腫瘍内容液はα-SMAの発現を低下させず,かつPDGF中和抗体を加えても変化なかった。2)線維芽細胞のα-SMAの発現低下を惹起する卵巣癌由来の因子としてPGDFが考えられたため、11株のヒト卵巣癌細胞株の培養上清中のPDGFの有無をELISAを用い検討したところ、1株の非表層上皮性卵巣癌株を除く10株の表層上皮性卵巣癌株全ての培養上清で検出された。更に、良性腫瘍の内容液ではほぼ全例でPDGFを検出できなかったのに対し,悪性腫瘍由来の内容液では高頻度に高濃度のPDGFが検出された。以上より、卵巣癌が放出するPDGFが周囲の間質細胞におけるα-SMAの発現低下に関与していると考えられた。sis癌遺伝子の産物はPDGFであるが,この産生が癌特異的であったことは,PDGF産出能の獲得が卵巣腫瘍の癌化に関わっている可能性を示唆した。本年度得られた以上の結果はすでに平成8年10月の第55回日本癌学会で発表し、更にきたる平成9年4月の第6回がん転移研究会および第48回日本産婦人科学会において発表する予定である。また現在、論文投稿に向け執筆中である。 α-SMAは線維芽細胞のみならず血管壁構築細胞にも強く発現しているが,癌由来のPDGFによるこの発現低下は骨格蛋白の変化を介して癌細胞の間質浸潤をより容易にしている可能性が考えられ、現在検討中である。
|