研究概要 |
癌肉腫は病理組織学的に上皮性と非上皮性から成る比較的稀な腫瘍で,ヒト子宮体部癌肉腫の組織発生に関して,combination tumor(1つの幹細胞より腫瘍が発生した後癌と肉腫に分化)とcomposition tumor(癌が発生した後間質が反応性に悪性化)の主として2つの説が考えられている.ヒト子宮体部癌肉腫の組織発生に関する研究はこれまで主として摘出物標本の病理組織学的検討によりなされてきた.これを細胞レベルで解明する目的でこれまで当研究室で樹立したヒト子宮体部癌肉腫細胞株EMTOKAとそれの限界稀釈法にて得られた7亜株を用いて,光顕および電顕にて細胞形態を観察するとともに免疫組織化学的手法により中間径フィラメントおよびc-erb B-2,p53の表現形式を同定してきた.免疫染色では親株と7亜株はすべてサイトケラチン8,17,18,19,ビメンチン,EMA,S-100,胎盤性ALP陽性であり,一方c-erb B-2とp53の発現の強さは親株,亜株のすべての細胞型で同一に観察された.電顕にて初期と晩期の継代数の異なる親株と亜株は上皮細胞に特徴的な所見を示し,肉腫細胞への移行型や肉腫細胞の所見は認めなかった.今年度は原腫瘍とEMTOKAの親株と亜株を材料として,クロナリティ解析を分子生物学的手法を用いて行った.原腫瘍のパラフィン切片より顕微鏡下で正常組織,腫瘍組織を採取すると同時に培養細胞を材料とし,DNAを抽出し,ヒトアンドロゲン受容体遺伝子(HUMARA)のメチル化に対応するとされているX染色体不活化を制限酵素HpaIIを用いてPCR法にて解析した.正常組織では2本のバンドを認めたが腫瘍組織,培養細胞親株・亜株ではバンドは1本のみであった.親株の異種移植により癌成分,肉腫成分の両者を有する癌肉腫が形成された.以上の研究結果より癌肉腫は組織発生の過程で幹細胞が上皮;間質の両成分に分化するモノクロナール由来であることが示唆された.
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