我々は、エストロゲンが血管平滑筋細胞の遊走、増殖に関係するPDGF-α、TGF-β、IL-1、IL-6などの発現に影響を及ぼすことを確認してきた。本年度は更にこのエストロゲンの作用を詳細に検討した。 1、平滑筋細胞に対するエストロゲンの作用部位、並びにエストロゲンにより発現するmRNAについての検討 エストロゲンの投与により、ERE(estrogen responsive element)にER-estrogen dimerが結合して発現が見られる、efp(estrogen finger protein)の発現も同様にRT-PCR方にて確認し、エストロゲンが血管平滑筋細胞の遺伝子発現に直接影響を及ぼす事を確認した。また、プロトオンコジーンであるc-mycのmRNA発現を抑制した。 2、ホルモン補充療法で子宮膜癌の発生に使われるプロゲストーゲンの作用に対しての検討 実際、ホルモン補充療法(HRT)においては内膜癌の発生予防にプロゲストーゲンを用いているが、その種類、その内膜癌発生予防の機序についてsulfatase(STS)より検討した。この結果、現在一番多く臨床にて使用されているMPAがSTS活性抑制効果が一番強いことが明らかになり、臨床効果を裏付けることができた。また、STS活性は内膜癌組織において正常組織の10倍以上の活性を認め、腫瘍組織局所のエストロゲンの供給に重要な役割を果たしていると考えられた。 一方、抗エストロゲン剤であるDanazol、TamoxifenのこのSTS抑制効果は弱く、HRTにおける子宮内膜癌の発生予防にはプロゲストーゲンが重要であると考えられた。 3、プロゲストーゲンの抗動脈硬化に及ぼす影響に関しての検討 HRTを行う時プロゲストーゲンを併用することが多い。エストロゲン単独とプロゲストーゲン併用時の各種成長因子に及ぼす影響を検討したが、単独時とほぼ同様に動脈硬化進展抑制に働くことを確認した。 細胞増殖調整をアポトーシスより検討 平滑筋細胞は本来増殖しないが、フェノタイプ変換により異常な増殖型となる。この事より、エストロゲンが種々の因子に影響を与え正常な状態にもどし、アポトーシスにより調整されている可能性を調べたが、24時間の培養では差が認められなかった。
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