卵巣癌の末期症例の腹水には、ヒト白血病細胞HL-60にthymidine phosphorylase(TP)を誘導する因子(以下TPIFと略)が存在することを示した。このTP誘導物質は容量依存性にHL-60にTPを誘導する。この活性は70Cで失活した。同様の活性を子宮体癌株であるIshikawaならびにIshikawaのsub-cloneで高い腹水貯溜と転移能をしめすmEllLf株にてもin vitroのHL-60分化促進作用と、TP誘導作用が確認された。ヒト子宮体癌(高分化型)の臨床検体における検討では、TPは癌の間質細胞にのみ発現しており、癌組織にはTPは検出されていない。また同一検体の正常間質にはTPは見られず、癌細胞によるpararine的調節が示唆された。そこで体癌株細胞を用いたin vitro実験を行った。IshikawaならびにmElILfはいずれもc-erbB-2を発現しており、その増殖はc-erbB-2抗体により抑制される。そこでc-erbB-2抗体で処理したmElILfにおけるTPIF活性を検討したがその活性は約1/5に低下していた。mEllLf自身にはTPの発現は無かった。mEllLfのserum freeの培養では、このTPIF活性は低下せず、TPIFの活性の有無とc-erbB-2とそのligand間の相互作用には直接の関連が無い可能性がある。ヒト腹水由来のTPIFは既知のHL-60分化促進因子とは異なっている。また各種インターロイキン抗体でも中和されない。 我々はこのTPIFを同定すべく現在までヒト腹水からHPLCによるTPIFの精製を試みているが、TPIFは分子量3000程度のペプチドと考えられるデータを得ている。
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