突発性難聴などの内耳疾患の原因の一つと考えられる内耳の血流障害における内耳液のイオン組成についてモルモットを用いた研究を行っている。 前下小脳動脈の30分間圧迫による内耳虚血下において内耳液のCa^<2+>濃度をイオン電極法で測定したところ、内リンパおよびコルチリンパのそれが明らかに上昇したのを観察した。外リンパでもわずかな上昇を認めた。いずれの変化も可逆的なものであった。 また、同様の局所虚血下の内外リンパのpHの変化を観察したところ、血流遮断後速やかにpHは7以下になり、Ca^<2+>が溶出し易い状態になることがわかった。これは、蝸牛内の活発な代謝ならびにO_2消費・CO_2産生を示唆するものと考えた。 さらに、CO_2の蓄積単独ではどの程度Ca^<2+>濃度の変化に関与しているかを検索する目的で、20%CO_2+20%O_2+60%N_2で30分間人工呼吸させ内耳液でのCa^<2+>がどのように変化するかを観察した。すると、内外リンパ・コルチリンパともにわずかな濃度の可逆的上昇が認められた。 内耳の局所虚血を30分間負荷すると聴神経の複合活動電位は不可逆的に高度の低下するので、pHやCa^<2+>濃度の可逆的変化は直接に神経活動の障害に関わるものではないが、聴力障害の起こる内耳環境として関わりがある可能性はある。同時に、30分間の虚血により蝸牛内の細胞はかなりの不可逆的障害を受けていると推察され、虚血ならびに血流再開に伴うCa^<2+>の移動は、細胞の活動によらない物理化学的なものと考えている。
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