研究概要 |
千葉県内のある地域の学童における疫学調査の結果から、アレルギー性鼻炎の発症には、何らかの遺伝的素因が関与していることが考えられた。そこで鼻粘膜過敏症状の発現に重要な役割を果たすヒスタミンH1およびサブスタンスP(NK1)レセプターに多型性が存在するのではないかと仮説をたて以下の3群48名を対象に、H1およびNK1レセプターの遺伝子多型をスクリーニングした。i)抗原に感作されているが無症状の者23名、ii)三親等以内に鼻アレルギー患者をもつアレルギー性鼻炎患者20名、iii)抗原に感作されていないが無症状の者すなわち、いわゆる血管運動性鼻炎患者5名。方法は、まずPCR-SSCR法をもちいてスクリーニングし、遺伝子多型が示された場合その塩基配列を決定した。成績は、H1lレセプターでは、i)群の1名において遺伝子多型が同定された。それは、野生型ではグアニンである1045番目の塩基が、同被験者ではグアニンとシトシンのヘテロ接合となっていた。これによって、H1レセプターの349番目のアミノ酸であるアスパラギン酸が一部ヒスチジンに置換される可能性が示された。本遺伝子多型は過敏症状の発現に抑制的に働いている可能性があると考えられたが、実際には48名中1名にしか認められず、臨床上アレルギーの発症に影響をおよぼす大きな因子とは考えにくいと思われた。一方NK1レセプターでは、エクソン1の後半部分とエクソン5にそれぞれ2通りのalleleからなる遺伝子多型を認めた。しかし、ともに塩基配列の変化のみで、アミノ酸配列は変化しない、いわゆるsilent mutationであった(TTC→TTT,Phe111;TCG→TCA,Ser378)。また、前記3群において、鼻過敏症状とのあいだで特徴的な分離を認めなかった。したがって、これらNK1レセプターの遺伝子多型には疾患の原因としての意義はないと考えられた。
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