研究概要 |
我々がヒトの声を聞き取りその内容を理解するまでのあいだに,末梢聴器から聴覚中枢までの聴覚路で様々な処理がなされている.聴覚路のどこかで障害を受けると聞こえる音が小さくなり,音声処理能力も低下する.この能力には周波数選択能と時間分解能があり,特に時間分解能は語音弁別に密接に関係しており,この評価は語音認知のメカニズムを知るうえで重要である.従来から時間分解能はギャップテストという方法で自覚的に評価されていた.今までの研究で我々は既にこれを聴覚の電気生理学的検査である蝸電図と聴性脳幹反応(ABR)を用いた他覚的評価法を開発した.これによって,従来の方法では被検者の集中力や知能に左右されていたギャップテストを客観的に評価できるようになった. 本研究では,蝸電図及びABRを用いた客観的ギャップテストを聴力正常者16名に同時施行した.刺激波形は持続時間50msecの4khz正弦波の第1音と,同じ周波数で長さ2msecの第2音の間にギャップ(無音部)を置いたもので,ギャップの長さは20msecより1msecまで作成した.第2音の立ち上がりで誘発される複合活動電位およびABR第V波の閾値を客観的時間分解能の値とした.その結果,ギャップ閾値は内耳レベルと下丘レベルとで約4msecと一致した.この値は従来の自覚的ギャップテストの閾値とほぼ同じであった.内耳における第2音に対する反応がそのまま自覚的なギャップの認知を決定すると判断された.以上の事より,聴力正常者では内耳レベルで時間分解能が規定されており,内耳より中枢の聴覚路には時間分解能に影響を及ぼす部位が無いと考えられた.
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