研究概要 |
平成9年度はマウスの匂い輸送蛋白(odorant-binding protein : OBP)について検討した。昨年我々の検討からヒトとラットの間ではOBPの類似性が低いことが予想されたため、種の近いラットとマウスの間でまずOBPの相同性を調べる必要があると思ったわけである。そこでまずマウス鼻粘膜のtotal RNAを抽出し、ラットでクローニングされている2種類のOBP(OBP1,OBP2)の塩基配列からデザインしたオリゴブライマ-を用い、RT-PCR法によってマウス鼻組織におけるOBP1,OBP2の発現を検討した。この結果、マウスにはラットOBP1と部分的塩基配列が完全に一致する遺伝子が発現していることが明らかとなった。その発現パターンをin situハイブリダイゼーションによって調べてみると、ラットと同様に鼻中隔、鼻腔側壁の分泌腺に認められ匂いの輸送蛋白として機能していることが推察された。一方OBP2に関してはラットと類似した遺伝子をマウスに於いて見いだすことはできなかった。この結果からマウスとラットという近い種であってもOBP遺伝子の保存性は高くないと考えられた。さらにこうした検討のなかでマウスの鼻組織にはラットでは知られていない脂溶性分子輸送蛋白の存在を世界に先駆け遺伝子レベルで明らかにするという成果も得られた。Major urinary protein(MUP)がそれであるが、MUPは肝臓で多量に産生される蛋白でフェロモンの輸送に関与するのではないかと考えられている。MUPで報告さているサブタイプの中で鼻組織にはMUP4,MUP5が発現し、それらはOBP1と非常に類似した発現パターンを示す。この結果からMUPはフェロモンの輸送に加え一般の匂い分子の受容機構に関与しているのではないかと想像された。
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