研究概要 |
実験的研究 1) モルモットを用い蛋白抗原であるKLHで全身感作後、蝸牛内の鼓室階に同抗原を注入し二次免疫応答による内耳免疫傷害モデルを作成し、内耳の光顕的観察を行った。蝸牛軸ラセン静脈やその枝に著明な細胞浸潤を認めた。KLHを貪食した細胞が鼓室階だけでなく、ラセン靭帯や蝸牛軸ラセン静脈枝内にもみられた。さらに、IgGやアルブミンがラセン靭帯、spiral limbus、蝸牛軸ラセン静脈を中心に蝸牛全体で染色されるものの、IgG陽性形質細胞が蝸牛内には検出されなかった。以前に報告した、細胞接着因子であるICAM-1が蝸牛軸ラセン静脈の枝のみならず、ラセン靭帯内の血管にも発現することも併せ考えると、蝸牛への炎症細胞の移送ルートとして全身循環からの移行が重要であることが示唆された。また、内耳の免疫反応に引き続く炎症反応が、血液-内耳関門に直接影響を及ぼしていることが示唆され、その結果内リンパ腔にもラセン靭帯の細静脈から炎症細胞の浸潤が起こりうることが示唆された。このラセン靭帯の線維細胞におけるNa,K-ATPaseやgap junctin蛋白の染色性の低下がみられたことから、一連の炎症反応によるラセン靭帯線維細胞の障害が難聴の原因になりうることが示唆された。 2) マウスラセン靭帯の線維細胞を培養し、炎症初期に単球やマクロファージから産生されるIL-1βやTNF-αの刺激を与えると、IL-6,TNF-a,MCP-1,KC,MIP-2,soluble ICAM-1,VEGF等の炎症性サイトカイン、白血球走化性活性の強いchemokine、白血球の接着因子の産生・放出が亢進した。したがってラセン靭帯線維細胞は内耳への炎症細胞移動を亢進させ、炎症を遷延化させることが示唆された。これによりラセン靭帯線維細胞も障害を受け内耳機能低下に関与していることが推測された。 3) マウスを用い肺炎球菌による中耳炎の内耳に及ぼす影響を光顕的に観察した。蝸牛内への細胞浸潤は軽度であったが、免疫染色では影響がみられた。ラセン靭帯ではfibrinogenの染色性が増加しgap junctin蛋白の染色性が低下した。中耳炎による内耳障害の原因として、蝸牛でのfibrinogenの増加とgap junctin蛋白の低下が関与していることが示唆された。
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