聴神経腫瘍(AN)症例における耳鳴の性状について検討するための基礎的資料を得る目的で、耳鳴検査装置(TH-10)を用いた耳鳴検査法の有用性及び短期再現性について検討した。オ-ジオメータに比べて耳鳴検査装置(TH-10)ではより詳しい耳鳴の性状の把握が可能であり、短期再現性にも優れていた。従って、多彩な臨床像を示すANにおける耳鳴の評価が可能となることが期待された。聴力保存手術を施行されたAN85例において、術前術後の耳鳴につき聴力保存群と非保存群に分けて検討したが、耳鳴の有無、耳鳴の大きさの変化、耳鳴の気になり方の変化に関して、聴力保存群と非保存群の間に明らかな差は認められなかった。また、耳鳴の気になり方の変化に関しては、個々の症例によってばらつきのある結果となったが、両群ともに術前術後をとおしてそれほど気にならない人が大部分であった。現在、ANにおける耳鳴検査所見の詳細を分析中である。ANにおける蝸牛障害の責任部位を検討するために、蝸牛遠心性神経及び外有毛細胞の機能を反映すると考えられる耳音響放射所見について検討した。AN95症例について耳音響放射を測定し、メニエール病確実例と比較し。AN症例のうち平均聴力レベルが60dBを超えるものでEOAEが誘発可能だった症例は3例認められたが、Repro、TEPの値は健側に比較して明らかに低下しており、ANのほとんどの症例で蝸牛遠心性神経及び外有毛細胞の障害が生じていると考えられた。現在、耳鳴抑制効果を有するリドカインのANにおける耳鳴に対する影響について、耳鳴の自覚的変化と耳音響放射の変化を経時的に観察しているが、現時点ではそれぞれの変化は症例により様々で、一定の傾向は認めていない。基礎的研究として、これら臨床的に観察された現象をANモデル動物を用いて検討中である。ANモデルとして小脳橋角部で蝸牛神経を機械的に圧迫する蝸牛神経障害、及び光増感反応による蝸牛神経循環障害を作成しているが、今後これらANモデルにおける耳音響放射所見を詳細に検討する予定である。
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